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東京高等裁判所 昭和49年(く)84号 決定 1974年5月23日

主文

原決定を取消す。

理由

本件抗告の趣意と理由は、検察官提出の「抗告および裁判の執行停止申立書」および同補充書記載のとおりであるから、これを引用する。

そこで、関係記録を調査し、当審における事実取調の結果を合わせ考えれば、被告人は現在原裁判所において兇器準備集合・公務執行妨害・傷害・現住建造物等放火・殺人罪により公判審理を受け勾留中であるから、被告人の看守、逃走防止等に十分な配慮を要すること所論指摘のとおりであるが、できる限り早急な治療を必要とする被告人の現在の病状(反応性うつ状態)、勾留の執行停止の要否を判断するため同人の心身の状態を鑑定することの必要性、鑑定人の意向、医療法人社団一陽会陽和病院が精神衛生法にいわゆる「指定病院」であること、その施設の状況、その他国公立施設の受容れ状況等諸般の事情にかんがみれば、原裁判所が現段階において民間施設である同病院に被告人を鑑定のため留置する措置をとつたことは本件の場合に関する限り鑑定人逸見武光の当審における供述中にもあるとおり、いわゆる次善の策として、やむをえないところであつたと認められる。しかしながら、右逸見武光の当審における証言によれば、被告人の鑑定留置期間は鑑定事項に照らし一〇日ないし二週間で足りるというのであつて、概ね右程度の留置期間が相当と認められ、さらに鑑定の目的、被告人の看守、逃走防止のための万全の配慮の必要性等所論の事情を十分に勘案すると、原裁判所が定めた留置期間「昭和四九年五月二二日から同年六月二一日午後二時〇分まで」は、長きに失して相当ではない。なお、本件においては、事案の重大性および被告人の身柄確保の必要性ならびに右陽和病院が純然たる民間の施設であること等にかんがみ、原裁判所が陽和病院に対し指示した「留置についての条件」のほかに刑訴法一六七条三項による司法警察職員に被告人の看守を命ずる職権的措置を併せて講ずることも実質上不可欠の必要事に属するものと認められるのに、そのような措置が講じられた形跡も存しない。以上の諸点を総合的に判断すれば、結局原裁判所の本件鑑定留置の決定は相当でないものと認められ、本件抗告はその理由があることに帰着する。

よつて、刑訴法四二六条二項前段により原決定を取消すこととする。そして、同項後段により更に当裁判所自ら裁判をなすべきかどうかについて検討すると、今後も引続き原裁判所が被告人の留置関係等につき直接掌握して置く必要があること等にかんがみ、右司法警察職員に対する看守命令の具体的内容およびこれとの関連における陽和病院に対する指示事項の内容等は、前記相当と認められる期間の鑑定留置決定と共に、原裁判所自らの決定するところに任せるのが相当と考えられるので、当裁判所において更に自ら裁判をしないこととする。

そこで主文のように決定をする。

(吉田信孝 粕谷俊治 本郷元)

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